橘川幸夫のブログ

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Chicago Ⅵ / Chicago
1973年9月 1日 21:57

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標題=Chicago Ⅵ / Chicago
掲載媒体=rockin'on 1973年10月号
発行会社=rockin'on
執筆日=1973/09/01
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 今年の夏は、人が言うほど暑くはなかった。全員不快の日、でも〈不快〉ではなかった。それは何時の頃からだったろうか。それまで僕は夏になれば〈冬が好いなぁ〉と思い、冬になれば〈夏が好いなぁ〉と思っていた。何かが倒錯した。暑い、とか寒い、とかいった皮膚感情より以前の納得を持ってしまった。しかし、夏になれば夏が好い、と思うほうが自然なんじゃないだろうか。

 それでも今年の夏、〈暑い〉と感じた数日間があった。お盆とかで、三百人近い人々が東京から消えた時だ。その時の太陽は暑かった。青空が恐かった。とっくに失われていた東京という霊がさ迷い出た感じだった。

 シカゴのように暑かった。爽快だったかも知れないが、結局、ここまで来てしまった僕には、きまずかったし、なじめなかった。最近の東京の夏は、昔のように、あるいは田舎のように、直射の暑さではなく、じわじわと包囲してくるような濁った暑さだ。平気で馬鹿になれる。僕の肉体構造にそれはなじめるから〈不快〉ではないのだ。

 シカゴについて語るには、あまりに初期の印象が強すぎる。Ⅰ・Ⅱしか知らない僕が突然Ⅴに直面しても、シカゴ自身その落差を見るよりも先に、自分自身の断層に圧倒されてしまう。シカゴは今日もあの日の太陽のように正しい。しかし、その正しさは、僕(たち)が放棄した正しさだ。

 シカゴもそれなりに年をとった。かつての軍艦マーチのような音は薄らいできた。顔立ちにも落書きが出てきたし、成熟したと言うのだろうか。しかし、シカゴは少しも変わっていない!

 それが成熟だと言うのなら、さっさと世の中のことでも、人間のことでも、分かっちゃってくれ。こちとら、そんなの分かりたくもねぇや。

 シカゴは、自分の信じている道を、自分の信じている足で、力強く歩く。素直なまなざしで、物事を正確に見る。実に健康で、実直だ。

 それで僕は何だというんだ!どうやったって自分なんか信じることが出来ずにふらふらして、はすかいでしか何も見ることがなく、いつも勘違いしている、不健康で、だらしない、僕は。

 しかしとてもじゃないけど、素面でシカゴみたいな顔にはなれず、結局、あんたとは出発点が違うんだ、と言うしかない。言葉の正確な意味で人種が違うんだ。僕はレコードを体系的とか構造的に聞くことが出来ない。ソロであれグループであれレコードはひとつのトータルな人格だからだ。僕は、〈シカゴ〉という人間を想定してからアプローチするしかない。もし、あんたの方が、俺の方が正しい人間なんだ、と言うなら、僕は別に人間なんかじゃなくたって一向に構わないさ。

 シカゴも、オースザンナへ帰って行く。帰る所がある人は帰った方が良い。帰って、もう二度と帰れないように叩き壊して来い。勿論、そんなことを、シカゴや三百万人に期待する方が馬鹿げている。アメリカのバンドは、アメリカそのものを叩き壊す音を創れずに、吸収、調和されてしまった。本当に打倒すべき敵は、先ず、自分自身だ、という発想が欠けていたのだ。

 シカゴの相も変らぬ一本気な音を聞いて、僕は、虚構の上に創られた虚構が一番強固な虚構だ、と思わざるを得なかった。

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