マニフェスト3 高速道路の無料化 []
2009年12月 6日 01:56

高速道路の無料化について考える

◇民主党の菅直人さんが推進したといわれる「高速道路の無料化」案については、その結果、二酸化炭素(CO2)が増えるとか減るとかいう議論が起き ている。議論の場は主にインターネット上であり、いろんな意見や解説がメールで運ばれてくる。国民的議論が起きるということは、それ自体は歓迎すべきこと である。これまで日本の政治状況は、賛成か反対かだけの権力争いだけで、企画の細部にわたって国民的議論がされたことはないのではないか。

◇それでは僕も参戦しよう(笑)。まず「高速道路の無料化でCO2が増えるか減るか」という問題は、「どちらもありうる」という答えになる。今まで のように人々が無自覚に自分の欲望を満たすだけであれば、「タダなら使わないと損だ」という意識で持って、無理に長距離旅行を企画するだろう。高速道路が 1000円になった時も、同じような現象が起きた。この議論は、無料化か有料化かという問題提起の先に、日本社会において自動車とは何か、という問題を根 本的に追求する契機にすべきである。

◇戦後、日本の道路は急速に整備された。僕が子どもの頃、千葉の親戚に遊びに行くと、最初は土埃が舞い上がる道路が、毎年幾たびにアスフルトが敷か れ、路地裏まで舗装されていく過程を見た。東京の下町のドブが流れる暗渠は舗装され、路地裏まで自動車が入れるようになった。それの名目は「火事対策とし て消防車が入れるように」であった。

◇一説によれば、戦後の全国的な道路整備は、アメリカ占領軍による指示だったという。学校給食にパンを推奨したのも、アメリカ国内の小麦業者のため であり、同様に日本の道路を整備することは、当時、圧倒的な力を持っていたデトロイトの自動車産業が日本に進出しやすい土壌を作るため、と言われている。 日本政府は、膨大な予算を道路建設に費やした。国税で道路が拡張されて恩恵を受けたのは誰か。もちろん生活の利便性が高まった国民であるが、ビジネスとし てその恩恵を最大に受けたのは、建設業者と自動車産業である。建設業者は設置時の一時的な利益だが、自動車産業は、その道路の上で恒常的な利益を得たので ある。

◇アメリカの思惑に反して、トヨタ自動車をはじめとする日本の自動車産業が急速な発達を果たしたのは、日本人の努力のたまものである。(この辺の事 情については、拙著「ヤ「やきそばパンの逆襲/河出書房新社}で詳しく説明している)。戦前、日本の輸出産業のメインは繊維であった。織機を製造していた トヨタが、戦後は、繊維に見切りをつけて自動車に賭けた。日本の技術力と工員の丁寧な労働が、日本進出を狙っていたアメリカに逆に進出するまでになったの である。自動車産業とは自動車メーカーとガソリンの輸入業者である。戦後日本は、国家が道路を建設し、その上で発達して自動車を世界に輸出して外貨を稼 ぎ、稼いだ資金で海外のガソリンを確保してビジネスにするという、とても分かりやすいビジネスモデルを構築したのである。

◇道路を作って一番得したのは国民ではなくて自動車産業だ、ということにいち早く気づいたのは田中角栄である。角さんは、自動車とガソリンに課税を かけ、その収益であらたな道路建設を推進した。かくして日本中の道路は整備し尽くされた。しかし、日本人というのは、本来のきまじめさで、一度決めたもの は徹底的に追求する。ある程度、整備された時に、次に次元で考えればよいものを、建設推進というエネルギーを押さえることが出来ない。

◇旧建設省が、一般道路を整備し尽くして、このままだと予算を削られると危機感を持った時に考えたのが「歩道橋」という奴である。日本中の道路に、 歩行者のための「橋」がかけられた。このことによって、鉄鋼産業は特需を迎えた。しかし、高齢化社会を迎えて、歩道橋は社会のネックになりつつある。歩道 橋が道路行政の新しい展開ではなく、現状の問題の対症療法として、つぎはぎされたものであるからだ。「道の駅」も、地方の役人が発案したものに、本省が飛 びついて、全国に展開された。道路本来の仕事が飽和してしまったからである。

◇高速道路は、東京オリンピックの時に東京の道路混雑解消のために作られた。高速道路を作るために、多くの人たちが引っ越しを迫られた。混雑する東 京に新しい道路を作るのだから、生活者を押しのけなければ作れない。しかし、全国に展開されている。高速道路網は、本当に必要なのだろうか。僕には、これ は新種の「歩道橋」のように思えてならない。道路の上に自動車のための歩道橋を作ったのではないか。

◇戦後社会の発展は自動車産業の発展である。トヨタ自動車の幹部は「日本を支えているのはうちの会社だ」と豪語したことがあると言う。しかし、それは、国民の税金で作られた道路の上で成立した成功であることを忘れてはならない。

◇僕は地域コミュニティを崩壊したのは、1に病院、2に自動車、3にテレビだと思っている。このことはかつて書いたので詳しくは触れないが、道路が 路地裏遊びを壊し、近くにタバコを買いに行くにも自動車を使うというライフスタイルが、近所の人との日常的な立ち話を奪ったと思っている。あらゆるものに メリットとデメリットがある。今、僕たちは、両者を吟味しつつ、未来の展望を語らなければならないのではないか。

◇リーマンショックによって、トヨタ自動車の世界生産台数は激減した。それまで年間1000万台の生産ラインを築き上げ、あと1年でその数字を突破 するところまで来ていたが、バブルの崩壊により激減した。トヨタの首脳は、すぐさま「600万台で利益のあがる体制を目指す」と軌道修正した。この判断は 見事だと思う。そして現実に、600万台の体制になりつつある。この先、景気回復して600万台が再び1000万台に迫ることはないだろう。僕は自動車を 否定するものではない。トヨタでいえば、600万台が世界にとって必要な台数なのだ。残りの400万台は不要なバブルの数だと思う。

◇電気自動車でもハイブリッドでもなんでもよいが、技術の進化は必要なことだが、それがすべての問題を解決するわけではない。むしろ、問題なのは、 僕らの側のライフスタイルだ。ハイブリッドカーが何台売れようと、不要な自動車が400万台売れない方が、どれだけCO2の削減に効果があると思うのか。

◇聞くところによると、プリウスの注文が多すぎて生産が間に合わないということだ。しかし、実際は、レクサスのような高級車の買い換えが多くて、ト ヨタ自動車にとっては自縄自縛になっているとのことだ。ステータス(見栄)を求めてレクサスを買う人は、現代のエコ風味社会のステータスとして、プリウス になびくのであろう。僕には全く理解出来ない。小池百合子さんが選挙カーを電気自動車にしたことの滑稽さを、他人事ではなく思うべきだ。

◇自動車は本来の機能として認めるべきだ。ステータスやファッション感覚やオタク感覚で自動車を語る時代は終わったのだと思う。歩いていける距離の 買い物は歩いて行こう。バスで通勤出来るなら、みんなでバスに乗ろう。長時間ドライブで観光地に行っても疲れ果てているなら電車で行って現地のレンタカー を借りよう。そうした生活者のライフスタイルの合理性を回復しなければ、単なる「自動車に乗りたい」というドラッグな状況を打破出来ない。そうした意識回 復のないところで、高速道路を無料化しても、無駄な走行が増えるだけだ。

◇物流についていえば、ITS(高度道路交通システム)の整備の方が緊急課題ではないのか。ただし、日本の地域を壊した、もうひとつの要因は、 チェーンストアである。ITSが必要なのは、地産地消と真逆のビジネスシステムである。この件については、民主党の岡田さんは十字架を背負っていると言わ なければならない。

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